職員が体験した心に残るエピソードをご紹介いたします。
霊のケアを実感
初めて看取りをさせていただいたのは、入居されて4年、91歳のA様でした。
夏のある日、急に足の痛みを訴えられ病院に行きました。ところが原因がわからず、その後も発熱が続きA様の容態はどんどんと悪くなって行き、ついにはご飯も全く食べられなくなりました。
ご家族と主治医、翠風園スタッフの三者で、何度もA様の今後について話し合いの時間を持ちました。ご家族は、経管栄養や胃瘻の造設などを望まず、自然に任せたいと仰いました。住み慣れたご本人の部屋で、最期を迎えて貰いたいと望まれたのです。
そして、私たちの心も決まっていました。A様とご家族の意思を尊重し、「ここでA様をお見送りしたい。今まで共に過ごさせて戴いた感謝を込めてお応えしたい」と、気持ちは一つになっていたのです。
段々と、言葉も話されなくなったA様が、意識のある時に言い続けられた言葉があります。
「ありがとう、ありがとうね・・・」
苦しいでも、つらいでもなく、ありがとうを言い続けてくださったお姿樣は、正瑛会の理念である、「報恩・感謝・奉仕」の意味を、A様自らが表されおり、それが私達職員への尊い置き土産だったとのだと思っております。精一杯の想いで関わらせていただいたA様との日々の中で、私達は魂のケアというものを、言葉でなく、実感することができたのです。
その後、A様はご家族や親戚の方達に見守られて旅立たれました。
今後も、グループホーム翠風園は、利用者様がいつまでもご本人らしく過ごしていただける様な、第二の我が家を目指して参りたいと思います。
感謝とお別れの言葉
退去されて7ヶ月のS様がこの世から旅立たれたと娘様より連絡があり、ご葬儀に出席することになりました。
「S様が素晴らしい方だったと参列される皆様に知って戴きたい」と思い、感謝とお別れの言葉を書いて、葬儀の席で読ませていただきたい旨を娘様に相談すると、「どうぞお願いいたします」と言ってくださいました。
それが以下の内容です。
「S様、この世からの旅立ちの知らせを、娘様よりご連絡いただき、晩年を過ごされたグループホーム翠風園を代表し、今日ここに馳せ参じた次第でございます。S様と共に過ごさせて戴いた二年余り、私達職員はS様から、実に多くのことを学ばせていただきました。その最大のものが、深い「感謝の心」でございました。職員が、ほんのちょっと何かをして差し上げても、ニコニコと明るい笑顔で「有り難う、サンキュー」と、手を挙げて必ずおっしゃるのです。そして、良いことにはいつも「ナイス、ナイス」と拍手をして讃えてくださり、そのお姿が職員にどんなに希望を与えてくださったか分かりません。S様、人生の大切な総仕上げの時、翠風園で生活を共にさせていただく中から、私達後輩に「感謝の重要さ、尊さ」をはっきりとわからせていただき、本当に有り難うございました。S様に見せていただいたお手本を、私達はしっかりと身に付けてまいります。本日は、S様の新しい旅立ちを職員一同、心から感謝の気持ちを込めてお見送り申し上げます。尊いひとときを共に過ごさせていただき、本当に有り難うございました」
そしてこのお別れの言葉の後に、娘様が最後の喪主ご挨拶の中で、
「母が認知症になり、家で看ることができなくなったことから、グループホーム翠風園さんに入れていただきました。こちらで本当に手厚い介護をしていただきました。翠風園に行ってからの母は、私がいつ行っても笑顔が絶えず、母の笑顔は最高でございました。この母の笑顔を引き出し、支え続けてくださった職員の皆様に、心からの感謝でいっぱいでございます」と涙ながらに深い謝辞を述べてくださいました。
また、参列されていた看護学校の教師の方より
「素晴らしい弔辞を有り難うございました。貴女の弔辞で会場に実に温かいものが流れました。そしてこの内容は、ご家族に対する最高の心のケアであったと思います」と感想を言ってくださいました。
最後にS様が素晴らしい出会いと気付きをくださったのだと思い、S様と娘様に心から感謝いたしました。 そして、S様が私達に見せてくださった人生の秘訣である「感謝の心」を今度は私達がまわりの方々へ伝えてまいりたいと思います。